キンモクセイ

キンモクセイの香りが好きだ。

だけど、どんな香りと問われてはっきりと答えられなかった。キンモクセイってどんな香りなんだろう。

甘い香り?甘いといってもお菓子の甘さとはちがう。お花の甘さと言えばよいのだろうか。うーん、お花の香りを知らない人には説明不足だ。

街にはたくさんのキンモクセイがあるのだろう。どこを歩いても甘い香りがする。

この前、キンモクセイの花の一部を私に見せてきた子がいる。ちゃんと香りはするのか嗅いだところ、十分と言っていいほど強い香りを放っていた。

その時、“鼻にツンとくる濃厚な密のような甘さ"と直感した。

語彙力を最大限に発揮してキンモクセイの香りを表した結果、この表現が一番具体的な甘さを想像できるだろう。

キンモクセイの香りはこの季節になると漂う。その香りを私はぼんやりと知覚して甘いと感じるが、その香源…キンモクセイの花を嗅いでこそ本当の香りを堪能できるのだと思った。

 

言葉で表されない感情

2023/07/30

 だいぶ月日が経ってしまったが、自分の感性について考えているので残しておく。

 

 『ル・グラン・ガラ2023』を観に行った。世界的に有名で、私も大好きなバレエ団である「パリオペラ座バレエ団」によるガラコンサート(あらゆる演目の一場面をいくつか披露するもの)だった。期待の新星からエトワール(トップダンサー)まで、本当に才能とテクニックを備えたダンサーが踊る、またとない奇跡的な公演を観られるチャンスをつかんだ自分にとって、まさに至福のひとときを過ごした。

 ダンサーの踊りを一言で表すと「美」——鍛えられた身体をしなやかに使う様子は、人間を象徴しているようで、どこか神秘的だった。

 音楽と踊りが完全に一致しているところが良かった。よくバレエは、「音に合わせて踊る」のではなく、「踊りに合わせて音が奏でていく」ように感じられることが理想と言われることが多い。実際、オーケストラの生演奏の場合は、指揮者がダンサーの動きに合わせてテンポを変えたり強弱のタイミングを調整したりすることがある。今回は、録音したものが音源だったので、そういった調整は行われていなかったと思われるが、録音した演奏に合わせていると感じられないくらい、ダンサーの踊りと音楽が合わさっていて、とても心が動かされた。特にエトワールのリュドミラ・パリエロが演じた『カルメン』は、身体をしなやかに使い、のびのびとした踊りを披露しつつ、観客に向けるまなざしには力強さがあり、とても情熱的で豊艶な印象を受けた。

 最近バレエ動画を観ると、テクニックを重視した踊りを見せるダンサーが多いが、こうした視覚的に見えない音楽の形を、視覚化させようと身体の動きで表現しようとすることが、言葉で表しようのない「感動」を生むのだと直感した。現に私はあまりのマッチに涙を流してしまった。

 公演中は、自分の感情に言葉は存在しなかった。そもそもバレエは言葉を用いない表現技法のひとつであるので、踊りと音楽から生じる何とも言えない「感動」をただ素直に感じるだけだった。だが、そういうときがあってもいいのかなと思う。感情をいつも言葉で表現するのではなく、時々こういった芸術を鑑賞して、言葉と離れる。言葉になりきれていない感情を自覚することも面白いし、自分がどういうときに感動し、涙を流すのか——ちょっとだけ気付けたことは、私の中で財産となった。

 出演者はそれぞれ国籍が異なる。言葉の壁があるにもかかわらず、バレエは踊りと音楽を使って、観客に表現できる。私が感動したのなら、ダンサーの踊りを通してコミュニケーションできたのだと思う。私の感じた「感情」は言葉で表現されなくとも、ダンサーの伝えたいことは伝わってきた。言語の異なる者同士だが、踊りと音楽で通じ合える——このことがバレエの「美」を生む根幹なのではないかと思う。